『人間主義の旗を――寛容・慈悲・対話』

『人間主義の旗を――寛容・慈悲・対話』

池田大作  フェリックス・ウンガー

「ヨーロッパ科学芸術アカデミー」のウンガー会長と、《人類共通の倫理》の確立を目指して語り合った対談集。東洋哲学研究所創立45周年記念出版であり、池田SGI(創価学会インタナショナル)会長の入信60周年にあたる2007年8月24日に発刊された。

内容

ヨーロッパ科学芸術アカデミーは、欧州のみならず、北南米、中東、アジアなど50数カ国に1200人に及ぶメンバーを擁する一大知性集団である。科学・技術を、より人間的なものへ――その志のもとに設立された。池田会長は同アカデミーの名誉評議員である。


同アカデミーは、SGIも参加して、1997年から宗教間対話シンポジウムを開始。「9.11」直後からは「四大宗教間対話シンポジウム」を開催して、「共生」の道を探求してきた。


ますます暴力的になりゆく世界にあって、その背景に、物質主義の拡大と、それによる人間性の退化があるとすれば、精神性の復興のために、宗教、哲学、倫理の役割は、きわめて大きい。では、その力を発揮させるには何が必要なのか?



ウンガー会長は言う。

「今、諸宗教に共通する価値観が失われ、それに代わって物質主義的な価値観が拡大しています。この傾向をグローバル化がさらに強めています。その結果、生命の価値が薄められ、『殺』が多発しているのです。『宗教の衰退』と『物質主義の増大』。この流れに歯止めをかけ、昔から受けついできた伝統的価値観を思い出すべきです」



そして池田SGI会長は言う。


「キリスト教も仏教も『殺すなかれ!』と説いています。『非暴力』『不殺生』。こうした世界宗教に共通する根本の教えを『地球全体の倫理』の基盤とせねばなりません。この二十一世紀にこそ――。そのためにも宗教間対話が必要です。暴力におびやかされる民衆の悲惨を救うために戦わずして、自己自身の魂の救済などありえません」


創立者とウンガー博士は、1997年、2000年、2001年、2006年と対話を重ね、また往復書簡などで意見を交換。『東洋学術研究』(2004年第2号~2006年第1号)誌上に4回の対談を連載した。今回、その内容に新たに2章を加えて、対談集発刊の運びとなったものである。


「哲学なき時代」といわれる現代にあって、求められている哲学の要件とは何か? 魂なき「物質主義」ではなく、自由なき「国家主義」でもなく、慈愛なき「市場主義」でもなく、寛容・慈悲・対話を主柱とする 「人間主義」こそ――この共通の信念から、多角的なテーマで、語らいが繰り広げられている。


2007年8月  東洋哲学研究所刊
定価1,980円(税込)
ISBN 978-4-88596-008-6



目次

略歴 フェリックス・ウンガー


序章  ヨーロッパ科学芸術アカデミーとSGI

  • 非暴力を「グローバルな倫理」に
  • 「地上から悲惨の二字をなくしたい」
  • 仏法が説く人間・自然・宇宙
  • 師父の存在、両親の教え
  • アカデミー設立の動機
  • アカデミーが取り組むプロジェクト
  • 哲学・宗教と自然科学との対話
  • 人間は「共通点」のほうが多い
  • 宗教間対話は「精神の戦い」
  • キリスト教と仏教の共通項
  • 〝9・11〟直後に「四大宗教間対話」
  • 「人間の救済」への協力
  • 宗教間対話は「対話の文明」の先駆

第1章  宗教と寛容

  • 寛容は「グローバル化時代に必要な徳」
  • 資本主義という新宗教
  • 「寛容憲章」と「SGI憲章」
  • 「寛容の精神」の定義
  • 一神教は非寛容か?
  • 〝他者を悪魔化する〟危険
  • 宗教と「寛容の危機」
  • 世界宗教のもつ「寛容の伝統」
  • 宗教と権力
  • 「科学的思考」との調和が不可欠
  • 「形式的な寛容」と「内実ある寛容」
  • 〝暴力と憎悪の連鎖〟を断ちきるもの
  • 「自由の像」とともに「責任の像」を

第2章  仏教の慈悲とキリスト教の愛

  • 「慈悲の本義」
  • 菩薩は「積極的寛容」を実践
  • 「生老病死」を見つめる人間
  • 慈悲と愛が「生」を輝かせる
  • 個人と社会を「癒す」宗教
  • ヨーロッパのトラウマ――ファシズムとスターリニズム
  • 人々の記憶を消し去る全体主義
  • 統一へ向かうヨーロッパ
  • カレルギー伯爵の構想
  • ヨーロッパ理念の柱「自由」
  • ベルリンの壁の崩壊とヨーロッパの再興
  • 表現の自由に限界はあるか

第3章  「平和の文化」の創出に向けて

  • 「物質主義」と「利己主義」の世界
  • 法華経「三草二木の譬え」のイメージ
  • 開かれた心――多様性の尊重
  • 結ぶ力――「対話の実践」
  • 永遠なる生命価値を――普遍性への洞察
  • 「世界人権宣言」に込められた「平和への思い」
  • 人間の内に「聖なるもの」を見る
  • 〝われ〟の権利から〝われわれ〟の共生へ
  • 「同苦の精神」と「悪への怒り」
  • 「家庭」から始まる「平和」
  • 女性の活躍が「精神的な文明」を
  • 「人間教育」には何が必要か
  • 幸福になる力を――創価教育の原点
  • 「最大の教育環境」は教師自身

第4章  地球環境問題と教育

  • 地球環境への「危機感」を共有
  • 先進国の「権力主義的な態度」
  • 「無信仰」が環境悪化の背景に
  • 生命の〝大いなる連関〟
  • 仏教とキリスト教――「自然の位置づけ」の違い
  • 仏教とキリスト教――「地球への畏敬の念」で共通
  • 「これから生まれてくる生命」の幸福
  • 環境教育――まず「事実を知る」
  • 科学技術をコントロールする「新しい倫理」
  • 〝畏敬と敬虔の感情〟を育てる
  • 〝生命の魔性〟が生んだ核兵器
  • 「宇宙的に考え」「地球的に行動する」

第5章  健康・医学・生命倫理

  • 「自分自身が自分の医師に」
  • 人間は何歳まで生きられるか
  • 心臓病を防ぐには
  • 「生命の起源と進化」に新しい光
  • 遺伝子技術――恩恵と危険
  • 生殖医療と胚の利用
  • 脳死・臓器移植の諸問題
  • 「積極的安楽死」をめぐって
  • 臨死体験が意味するもの
  • 「生命の永遠性」
  • 医療倫理――医師のあるべき姿とは
  • 「患者の自己決定権」が拡大
  • 医療事故を防ぐために


フェリックス・ウンガー( Felix Unger )

1946年生まれ。医学博士(心臓外科)。オーストリア・ウィーン大学医学部卒業。ウィーン大学助手、インスブルック大学教授を経て、ザルツブルク病院心臓外科医長。1990年、「ヨーロッパ科学芸術アカデミー」の創立とともに、創立者の一員として会長に就任。同アカデミーの心臓病調査研究所所長も務める。『心臓動脈手術――:1990年代の需要とニーズ』など著書多数。モニカ夫人は画家。

ブダペスト大学、ティミショアラ大学の名誉医学博士、創価大学、マリボー大学、リガ大学の名誉博士でもある。

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