第39回 学術大会(ISTACとの共同シンポジウム)
(共同シンポジウム「イスラームと仏教の対話」。左からベルグート所長、ヌルル・アイン研究部長、山崎達也主任研究員、岩木秀樹研究員)
第39回学術大会が5月31日、6月1日に創価大学において対面で開催された。研究所の学術大会は、国内外の研究員・委嘱研究員が集い、法華経研究をはじめ宗教間・文明間対話、平和と人権、環境問題などの課題克服の研究成果を発表する機会であり、それぞれの専門・研究分野を踏まえたテーマで発表を行った。
1日目(5月31日)には共同シンポジウム"Dialogue between Islam and Buddhism: Faith and the Essence of Human Beings"(「イスラームと仏教の対話――信仰と人間の在り方をめぐって」)を対面で実施した。※シンポジウムの詳細は「東洋学術研究」に掲載
シンポジウムは、マレーシア国際イスラーム大学の国際イスラーム思想文明研究所(ISTAC)との初の学術交流として実現した共同シンポジウムである。イスラームと仏教が持つ平和と共存の知恵を探求し、宗教間対話を通じた世界平和への貢献を目的として企画された。このテーマに対して、ISTACからアブデルアジズ・ベルグート所長とヌルル・アイン・ノーマン研究部長を招聘し、当研究所の山崎達也主任研究員と岩木秀樹研究員とともに発表を行った。
共同シンポジウムでは、田中亮平代表理事・所長の挨拶の後、それぞれが以下の発表を行った。
●"Interreligious Ways to Coexist - The Wisdom of Peace and Coexistence between Islam and Buddhism"(宗教間における共存への方途――イスラームと仏教における平和・共存の知恵)
(岩木秀樹 東洋哲学研究所研究員)
現在のウクライナやガザでの紛争を背景に、民族や宗教がモザイク状に混在する地域での共存の可能性を探求した。イスラームには都市文明・商業文化における多様性の前提、多元的預言者の承認、移動文化による開放性という三要素の寛容性があり、オスマン帝国の啓典の民制度はその共存システムの一例である。一方、仏教には生命の尊厳、非暴力平和志向、同苦などの特徴があり、こうした両宗教の共通性から平和構築の知恵を明らかにした。
●"Integrating Islamic and Buddhist Educational Philosophies: A Comparative Study on Holistic Human Development"(イスラームと仏教における教育哲学の融合――包括的な人間開発の比較研究)
(ヌルル・アイン・ノーマン ISTAC研究部長)
イスラームの「タルビヤ」(魂の育成)と仏教の「バーヴァナー」(心の修養)の共通点を探り、統合的教育モデルを提示した。こうした教育とは単なる知識の伝達ではなく、自己変革のための「革命」であり、唱題などの修行を通じて内なる尊厳を目覚めさせる「覚醒の教育学」に重要性がある。この教育において知識は手段であり、真の目的は道徳的・精神的成長にある。池田SGI会長の「平和は他者に心を開くときに始まる」との言葉のように、競争から慈悲への教育転換を提唱した。
●"The Metaphysical Structure of the Human Revolution and the Concept of the Perfect Man of Ibn-Arabī"(人間革命の形而上学的構造とイブン・アラビーにおける完全人間の概念)
(山崎達也 東洋哲学研究所主任研究員)
池田先生の人間革命論とイスラーム神秘主義思想家イブン・アラビーの完全人間論との哲学的関連性を考察した。人間革命を利己的生き方から利他的生き方への自己変革として定義し、日蓮仏法の因果倶時の原理による超越的構造を明らかにした。この原理における原因と結果の同時存在という概念は、完璧さの追求とその状態が同時進行することを示しており、イブン・アラビーの「新たな創造」概念と対比することで、両思想における永遠なる瞬間の形而上学的意味を探究し、世界平和への実践的意義を論じた。
●"Faith and Essence of Human Being: Exploring the Islamic Concept of 'Honored Vicegerent'"(信仰と人間の在り方――イスラームにおける「名誉ある代理人」概念の探究)
(アブデルアジズ・ベルグート ISTAC所長)
イスラームにおける人間観を「名誉ある代理人(カリファ)」として提示し、包括的な人間理解を論じた。このカリファには神、自己、他者・社会、自然・宇宙との四つの関係性があり、これらの関係性の欠如が人間理解の断片化をもたらしている。しかし人間は宗教に関係なく神から尊厳を与えられ、完全な形で創造され、自由意志を持つ存在である。こうした視点から池田SGI会長の教育思想における価値創造教育、世界市民教育、平和構築の探究に重要な意義があることを示した。
発表後には、パネルディスカッションを行い、登壇者がそれぞれの発表へコメントと質問を寄せた。また、参加者との質疑も活発に行われた。
2日目(6月1日)には研究発表大会として、以下の発表が行われた。
・階級文化と行為性(井上大介 研究員)
・子ども・若者のエンパワーメントとセカンド・チャンス――子ども・若者の意見表明権と社会参加の視点から(宮城孝 委嘱研究員)
・現代日本における「宗教」の言説分析――「宗教2世」「カルト」「無宗教」をめぐって(大西克明 研究員)
・"Art as a tool to promote dialogue: the ideas of Daisaku Ikeda"(芸術を対話促進の装置として:池田大作の思想)(フランチェスカ・コッラオ 海外研究員)
・『学天台宗法門大意』の教判説――湛然説の受容に注目して(松森秀幸 研究員)
・中国民国期、北京香山慈幼院卒業生の進路とネットワーク――『院刊』をてがかりに(大江平和 委嘱研究員)
・イスラム教国におけるジェンダー――サウジアラビアにおける女性の自動車運転解禁のケース(浅子清 客員研究員)
・東洋思想と気候変動対策(藤原武男 委嘱研究員)
また、2日目には研究員の全体会も開催された。8研究グループと海外研究員の代表による活動報告が行われ、田中代表理事・所長が挨拶した。