1. HOME
  2. 学術大会・講演会
  3. 学術大会
  4. 第38回 学術大会

第38回 学術大会

 

(右から東洋哲学研究所委嘱研究員の篠宮紀彦氏、帝京大学教授の濱田陽氏、実践女子大学教授の犬塚潤一郎氏、同研究所所長の田中亮平氏、主任研究員の山本修一氏、委嘱研究員で司会の蔦木栄一氏)

 

 

(シンポジウムの模様はZoomを経由してYouTubeliveで限定配信され、国内外の研究員が視聴した)

 

第38回学術大会が5月25、26日に創価大学において対面とオンラインで開催された。研究所の学術大会は、国内外の研究員・委嘱研究員が集い、法華経研究をはじめ宗教間・文明間対話、平和と人権、環境問題などの課題克服の研究成果を発表する機会であり、それぞれの専門・研究分野を踏まえたテーマで発表を行った。

 

1日目(5月25日)にはシンポジウム「AIと信仰・宗教・思想」を対面とオンライン(登壇者はZoom、参加者はYouTubeLive配信にて視聴)で実施した。※シンポジウムの詳細は「東洋学術研究」に掲載

 

シンポジウムは、今般の人類社会の喫緊の課題であり、人知を超えたとさえ言われるAI(人工知能)と人間がどう関わるのか。こうした点を鑑みて「AIと信仰・宗教・思想」をテーマとして行う。なお、2024年は創立者・池田大作先生と理論物理学のアナトーリ・ログノフ博士との対談『科学と宗教』の発刊30周年の佳節でもあり、科学と宗教、信仰と理性に及ぶ領域も踏まえた議論を進めていくことを目的として企画された。このテーマに対して、犬塚潤一郎氏(実践女子大学教授)と濱田陽氏(帝京大学教授)を招聘し、当研究所の山本修一主任研究員と篠宮紀彦委嘱研究員とともに発表を行った。

 

シンポジウムでは、田中亮平代表理事・所長の挨拶の後、それぞれが以下の発表を行った。

 

●無痛社会と人工共感:痛みを感じるAIはシンギュラリティなのか?

(篠宮紀彦 東洋哲学研究所委嘱研究員)

AIは膨大な量のデータと膨大な計算資源を必要として、量的な力によって高度な結果を生み出すが、これに対して人間は心による質的な力を生み出すことができる。そのなかでも、「痛み」とは生命の根源的な煩悩と直接的に関係しているのではないだろうか。池田先生は、痛みを遠ざけようとする現代文明を「他化自在天」の働きと言及された。無痛化する現代で、AIが痛みや共感・苦しみを理解できるかどうかを考えることは大事なテーマである。

 

●仏教の立場からAIの発展に望むこと

(山本修一 東洋哲学研究所主任研究員)

死のある人間と異なり、AIの知識は世代を超えても失われることがなく、これまでの人間が作ってきものとは別次元のものと言える。AIが人智を超える可能性も指摘されるなか、宗教にあっても対応を迫られている。経典や書籍をデータ化したり、より円滑な人間関係の構築のために活用されることがあっても、非情(感情を持たない)のAIが人間のようになりえるとは考えられない。その使用方法をめぐって、誤りのないように議論を進めていく必要がある。

 

●人工知能の得体の知れなさにいかに向き合うか――「存在」と「痛み」が変容するなかで考える

(濱田陽 同志社大学教授)

AIはブラックボックスと言われ、AIを製作した技術者もなぜ動いているかわからない部分もある。多くの情報を吸い上げて、何かを生成する状況が現在である。AIは倫理に反することは答えられないとされるが、特殊な操作をすれば信じられないような言葉が出てくることもある。AIは人間にはできないこともできるが、人間の持つ力とは違うものである。AIが友人や医師、宗教者の代わりにカウンセリングをしても、理屈としては通じていても、悩みや痛みは次々と出てくる。究極的な解決がない苦悩のなかで、最後は宗教そのものが大事な存在になってくるだろう。

 

●言語世界と言葉の経験――能力と人間性,LLM-AIと人間の多重性

(犬塚潤一郎 実践女子大学教授)

AIは既に身近に存在し、自動運転やビッグデータの活用などが行われている。しかし、それはあくまでも人間の能力を補完したものであって、人間の想像の範囲のなかであったが、AIなかでもLLM(大規模言語モデル)は、これまで機械化されることがなかった言語を人間無しで動かそう、人間の外部に存在させようとするものである。しかし、AIが学習する言葉は意味を理解するプロセスではなく、記号として意味を排除されたものであり、さまざまな感情を含む言葉には事実や経験も併せ持っていた。その世界が侵食され、あたかも人間のような働きをし、人間を超えたように見える現在は、人間性の危機が極大まで大きくなっている。こうした状況のなかで、人間とは何か、人間性とは何かを問うていくことが重要である。

 

発表後には、パネルディスカッションを行い、登壇者がそれぞれの発表へコメントと質問を寄せた。また、参加者との質疑も活発に行われた。

 

2日目(5月28日)には研究発表大会(対面とZoomにて実施)として、以下の発表が行われた。

 

・鳩摩羅什訳経論における調達と提婆達多(前川健一 研究員)

・形骸化した道徳悪からの脱皮(大久保俊輝 委嘱研究員

紋中紋」(Mise en Abyme)とナラトロジーの問題(寒河江光徳 委嘱研究員)

・対立と共存のビッグヒストリー(岩木秀樹 研究員)

Share
Tweet
LINE