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第36回 学術大会

 

(上段左から、中央大学教授・比較文明学会会長の保坂俊司氏、東京大学名誉教授の市川裕氏、東洋哲学研究所特任研究員の石神豊氏。下段左から、同研究所の委嘱研究員の春日潤一氏、所長の桐ケ谷章氏、委嘱研究員で司会の蔦木栄一氏)

 

第36回学術大会が5月28、29日にオンラインで開催された。研究所の学術大会は、国内外の研究員・委嘱研究員が集い、法華経研究をはじめ宗教間・文明間対話、平和と人権、環境問題などの課題克服の研究成果を発表する機会であり、それぞれの専門・研究分野を踏まえたテーマで発表を行った。

 

1日目(5月28日)にはシンポジウム「地球的危機の『挑戦』と宗教・文明の『応戦』――パンデミックを契機として」をオンライン(登壇者はZoom、参加者はYouTubeLive配信にて視聴)で実施した。※シンポジウムの詳細は「東洋学術研究」に掲載

 

シンポジウムは、猛威を振るうコロナウイルスが及ぼした人々の宗教観、死生観、経済観への「挑戦」によって生じた分断と不寛容と憎悪に対して、人類がいかにして立ち上がり「応戦」していくかを論じるもの。その基盤として、2022年に対談開始50周年となった創立者・池田大作先生と文明史家A・J・トインビー博士との対談集『二十一世紀への対話』をひも解きながら、人類の未来を指し示す宗教と文明による「応戦」という視点から企画された。このテーマに対して、東洋哲学研究所と交流を結ぶ市川裕氏(東京大学名誉教授)と保坂俊司氏(中央大学教授、比較文明学会会長)の2人を招聘し、当研究所の特任研究員の石神豊氏と委嘱研究員の春日潤一氏とともに発表を行った。

 

シンポジウムでは、桐ケ谷所長の挨拶の後、それぞれが以下の発表を行った。

 

●『二十一世紀への対話』の歴史的文脈

(春日潤一 東洋哲学研究所委嘱研究員)

『二十一世紀への対話』においてトインビー博士と池田SGI会長は、非常に多岐にわたるトピックについて論じている。特に東洋の宗教に熾烈な関心を寄せる両者が、各々の宗教観を縦横に展開している第3部は対談の中核部分であり、どのような時代状況を背景として語っていたのかという歴史的文脈に照らしてみることが必要である。1960年代からの激動の時代のなかで、トインビー博士がSGI会長に対談を提案したことを念頭に置いたとき、対談集をどのように理解することができるかをより深く探っていきたい。

 

●危機の時代の文明観──トインビー・池田対談のアクチュアリティ

(石神豊 東洋哲学研究所特任研究員)

危機の時代と言われる現代、危機的な現象はさまざまな形で現れている。この時代に生きるかぎり、こうした現象に対し、どう受け止めどう進むべきかを考えることは必要なことだと思う。1970 年代という時代を背景としつつ、正面から問題の本質について対話を交わした『二十一世紀への対話』から、この点を学ぶことが重要である。当初のトインビー博士の仏教理解は、文献の問題もあったと思われるが、煩悩の断滅という小乗的な表現にこだわっていたようにみえる。しかし、池田SGI会長との対話によって、大乗仏教の立場を明瞭に確認でき、もともと描いていた「愛」「献身」という自己中心性の克服原理を自身の体系に位置づけることが可能となったように思われる。

 

●危機を乗り越える思想の構築は可能か──インド思想を事例として比較文明学から考える

(保坂俊司 中央大学教授、比較文明学会会長)

トインビー・池田両氏が共有する「人類の地球的危機」に対して、その根本原因の究明とともに、「文明を構成する人間の内発性を開花させゆく宗教の重要性」という視点を中心に考えることが重要である。パンデミックや、ロシアによるウクライナ侵攻という軍事的危機を契機として、このシンポジウムのテーマと『二十一世紀への対話』を関連させて着目したのが、「依正不二」という言葉である。この言葉は仏教用語としてよく知られているが、対談においては重奏低音のように共有されている。私はこれをインド思想的に「自他同置(自己と他者の立場を置き換える)」と表現したい。そのうえで、現代版の“ミリンダの問い”と言える興味深い対話をさらに検討する必要があると思う。

 

●「第2の枢軸の時代」に向けて──人類の精神革命と自己抑制

(市川裕 東京大学名誉教授)

高度の精神文明を築いた人類が、西欧近代に発する非宗教な近代科学技術文明を成熟させる過程で繁栄と共に人類の生存の危機を招来した今、宗教の復権による精神革命が、人間の無明を克服し人間を陶冶する役割を担うことに希望を見出したい。トインビー博士は、その対談で池田SGI会長に何を託したか。そして、それをその後の多くの対話でどのように具現化していったか。SGI会長は、ホフライトネル氏との対談で、「第2の枢軸時代」への期待を語っているが、どうしたらこの時代を実現できるのかが、人類の近未来にとって切実な課題である。宗教、教育、社会制度という観点から、現代を「第2の枢軸時代」としていくための方途をより深く考えていきたい。

 

発表後には、パネルディスカッションを行い、登壇した4人がそれぞれの発表へコメントと質問を寄せた。また、参加者との質疑も活発に行われた。

 

2日目(5月29日)には研究発表大会(Zoomにて実施)として、以下の発表が行われた。

 

The Tilting Stream of Dharma Metaphor in Mahāyāna Buddhist Exegesis(ジェームズ・アップル 海外研究員)

・鳩摩羅什訳経論における音写と意訳(前川健一 研究員)

・ロシア・ウクライナ紛争の淵源を考える 西欧・スラブ主義、ユーラシア主義(トゥルベツコイ、米重文樹)、スラヴォイ・ジジェク)(寒河江光徳 委嘱研究員)

・欲望の制御への挑戦(大久保俊輝 委嘱研究員)

・分子から人間を科学する~アルツハイマー病研究からの一考察~(道川誠 委嘱研究員)

・自殺現象に関する考察――コロナ禍における人間社会の変化において――(山口力 委嘱研究員)

・「自己-社会-環境」この3つの範疇の関係の表記方法について――枢軸時代の儒教・ユダヤ教・仏教・ギリシャ精神を例として――(光國光七郎 委嘱研究員)

・文化の相対性・普遍性をめぐるアーノルド・J・トインビーの歴史研究――『二十一世紀への対話』に見られる宗教概念の多様性に注目して――(井上大介 委嘱研究員)

・Global Citizenship Education: Lessons from the Lotus Sutra and the Thoughts of Dr Daisaku Ikeda(ボイ・チョンメイン 海外研究員)

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