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連続公開講演会「生命倫理と宗教」第4回

◆講師:池澤 優氏(東京大学大学院教授、同大学死生学・応用倫理センター長)
◆開催日:2017年12月5日
◆会場:TKP市ヶ谷カンファレンスセンター(東京・新宿区)


講演内容は「東洋学術研究」に掲載

 
 
 池澤氏は、東京大学卒業後、ブリティッシュ・コロンビア大学大学院博士課程修了を修了(哲学博士)。「中国古代宗教」「祖先崇拝」「死生観」の研究を専門とするとともに、儒教に関する論考も数多く発表している。講演では冒頭、「生命倫理とは何か」を掲げて、その基本的な考え方を紹介。アメリカ、ドイツや日本での事例を比較として挙げながら、中国における生命倫理の現状について論究した。


 氏は、「生命倫理の考え方は、アメリカで生まれました。それまでも存在していましたが、あくまでも医療倫理で、医療従事者のための倫理でした。そのため、何が良いかは医者が決め、患者はそれに従うべきだという考え方となっていました。患者による自己決定は、一切認められていなかったのです」と言及。アメリカで生命倫理が権威を獲得したのは、1970年代に国会委員会が設定されたことであり、そこで「人格の尊厳」を要として、「善行」「無気概」「公正」の四大原則が定められた事実などを解説した。また、ドイツで生まれた生命倫理の論理は、人間のあり方を含め、宇宙の万物は人間の意志を越える何者かによって作られたものである。それは人間によってしか認識されないが、だからこそ、人間は自己が触れてはならない領域があることを承認しなければならないという、一種の宗教的な感覚を言語化・理論化したものである。また、日本では、『関わり合い』『つながり』の側面を強調する生命倫理である。こういった点から、文化が異なると生命倫理の現れ方も異なってくると言えるのではないかと語った。


 そして、中国では、医療の治療の正当性を儒教の仁に求め、儒医という儒教倫理を体現する医療によって、伝統医学の医療倫理が確立され、仏教の不殺生の考え方も入っていることに触れ、「現代の中国では、医師が専門職化していない現状があり、つまり国家のもとにあります。この中国に生命倫理学を導入したのは、邱仁宗という研究者です。これは、アメリカの生命倫理を輸入したもので、斬新なものでした。他者と社会にとって価値を見出す人間観のもと、一定のシステムを作るべきであるという考え方もっていました。中国の生命倫理とアメリカの生命倫理との違いは、出産に関する考え方でした。国家による生殖に関する政策を、どう倫理的に説明するのかは、中国の課題であったため、人間は社会に貢献している時に社会から尊重されるという生命倫理を掲げたのです」と論じた。最後に、「中国の生命倫理のキーワードは全体です。これは、儒教を継承しているかもしれませんが、それが何かが重要です」と述べた。

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