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連続公開講演会「持続可能な未来と宗教」

◆講師:川窪 啓資氏(麗澤大学名誉教授)
◆開催日:2016年10月25日
◆会場:TKP市ヶ谷カンファレンスセンター(東京・新宿区)


講演内容は「東洋学術研究」に掲載



 川窪氏は、比較文明学、アメリカ文学を専門とし、麗澤大学外国語学部学部長、国際比較文明学会副会長、日本ナサニエル・ホーソーン協会会長等を歴任してきた。麗澤大学講師を務めた際に、廣池千太郎学長(当時)の通訳としてトインビー邸を訪問してより、トインビーの『歴史の研究』の読解・研究をはじめ、さまざまな角度から研究を推進。比較文明学の発展に尽力してきた。こうしたなかで自著『トインビーから比較文明』を上梓。トインビーの事績を「文明論」「宗教観」「国際政治学」の観点から研究し、「トインビーは未来の人類社会の一大精神的先達である」と位置付けている。


 講演では、トインビーの宗教の考察について、「トインビーは神という抽象的な存在が暗闇の中にあるようなもので分からないと言い、『究極的精神的実在』を信じるようになりました。イギリス国教会の家に生まれながら、他の人に宗教を語るために、カトリック、プロテスタントをはじめ、ユダヤ教、儒教、仏教を幅広く学んでいきました。つまり、比較文明から、その文明の中核である宗教へと向かっていき、何が宗教の本質なのかを探究していったのです」と言及した。

 そして、博士の研究態度の中心に、“文明は宗教によって生まれている”“文明と宗教の研究は一体である”といった考えがあったと強調。「だからこそ、世界にあるさまざまな宗教が争いの原因となるのではなく、話し合いをし、共に良い点を吸収し合って平和を創っていくことをトインビーは望んでいたのではないでしょうか」と語った。


 さらに、氏とトインビーとの出会いに触れ、「私は1972年、ロンドンでトインビーの通訳を務めたことがあります。握手をしたその手はとても柔らかく、その目は全ての人の本質を見ようとする力に満ちていました。お会いした人は皆、尊敬と敬愛の心を持つでしょう。それこそが、さまざまな思想・宗教を探究し抜いたトインビーが辿り着いた人格ではないでしょうか」と述懐。そして、広範に及んだトインビーの研究領域は多くの研究者から批判の対象となったが、そうした声に屈することなく文明史研究の礎を築いたことを通し、「トインビーの存在は、今日にあっても世界的であり、その考えにさらに迫っていかなければならないと思います」と述べた。

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