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5.「オニール劇の変遷」

オニール劇の変遷

大野久美(東洋哲学研究所研究員)

今年(2003年)はユージン・オニール没後50年目にあたる。ブロードウェイでもオニールの自伝劇と呼ばれる『夜への長い旅路』(1956年)が上演され、公演は大変評判であったようだ。

オニールは、アメリカ近代劇の出発点として歴史的役割を果たした偉大な劇作家であった。1936年にノーベル文学賞、ピューリツァー賞4回受賞(4回目は死後に受賞)という輝かしい足跡からも明らかである。

彼の作品は二つの側面に分ける事ができる。一つは、誰もが背負わなければならない宿命に支配された複雑な登場人物を、社会的表現主義と心理的表現主義を介して分析したものである。また他方は、個人と集団の心理的深層構造の矛盾を抉(えぐ)りだしたものと言える。

オニールは、全盛期とも言える時代に、代表作と呼ばれる『偉大なる神ブラウン』(1926年)と『奇妙な幕間狂言』(1928年)を発表した。『偉大なる神ブラウン』は、登場人物達の仮面の使い方が鍵となる作品である。彼は、単に二重人格や潜在意識を表すために仮面を用いたのではなく、意識や無意識の葛藤の象徴として仮面を用いたのである。

『奇妙な幕間狂言』は、仮面の使用に代わって、独白という手法を使って重層多元的に捉えた作品である。この重層立体構造は、フロイト、ユング思想を融合させ、ニーチェの超意識を超えて、自己調和としての「幸福と平和」つまりショーペンハウアー的な世界から成るものである。

後期の作品は、オニール自身の信仰への矛盾を捉えたものとなっている。彼は劇作品を通し、真の信仰を探求していたようにも見える。

オニールの劇はどれも難解で複雑な作品ばかりである。しかし、精神分析学、ニーチェ哲学、東洋思想の角度から多角的に分析することによって、その真髄を垣間見ることができると言えるのではないだろうか。

(『東洋学術研究』2003年第2号から)
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